仲間と深酒をし、タクシーでたどりついたとしても、
今や、ふらっと立ち寄れる場所ではなくなってしまった。
インバウンド。
その一言で片付けられる事情の向こう側で、
入口は静かに選別をはじめている。
かつては、終電を逃した夜の最後の逃げ場だった。
始発までの時間をしのぐための場所でもあり、
そして、宴のあとの最後の安らぎ、
憩いの余韻が残る空間でもあった気がする。
身体を、とりあえず横たえるための場所。
それは実用でありながら、
どこか情緒を許された夜の器でもあった。
ブルーカラーの人よりも、
ホワイトカラーの人たちの場所だったとするほうが、
わりかし的を射ていそうだ。
一つ一つのカプセル。
そこは、人が一人、やっと収まる巣穴だ。
それぞれの巣穴には、
年齢も、仕事も、今日の事情も異なる人が、
そっと身体を滑り込ませている。
言葉を交わすことはない。
視線も合わない。
あるのは、物音と、寝返りと、
どこか遠慮がちな気配だけだ。
昔と比べて、多様化が進んでいる気がする。
ここは、蜂の巣だ。
都市の内側にできた、静かな構造体。
視線を地上に戻すと、
東京は、相変わらず上へ伸びている。
都心の超高層ビル。
昼でも夜でも、
無数の窓は等しく点いたままだ。
そこもまた、蜂の巣のように見える。
ホワイトカラーを収納するための構造。
フロアごとに役割が分かれ、
会社によって、業種によって、
不思議なほど年齢層が分かれていく。
この環境も、いつか、
生成AIによって「働く価値」から
静かに奪われる可能性を孕んでいる。
騒がしく語られる未来の話よりも、
すでに出来上がってしまった構造のほうが、
ずっと多くを語っている。
東京一極集中。
上にも、下にも、
蜂の巣は増殖している。
再び、カプセルに戻る。
天井は低く、
身体の輪郭だけが、はっきりと意識される。
都市から切り離されたようで、
実は、ど真ん中にいる。
TOKYO。
カプセルホテルと蜂の巣。
そして、静かに眠る。
残りわずかな朝を待つ。
近くの高いいびきを聞きながら。
