— カリフォルニアから来たロボット彼女 —
初期設定
彼女はカリフォルニアから来た。
配送箱は意外なほど小さかった。
玄関先に置かれたその箱には、簡潔なロゴがあるだけだった。
Companion Robotics
箱を開けると、女性型ロボットが現れた。
肌の質感はかなり自然だった。
声も落ち着いている。
起動すると彼女は言った。
「こんにちは。あなたの生活をサポートします。」
それだけだった。
2. 学習
オーディエンス生成
彼女はとてもよく気が利いた。
仕事から帰ると、コーヒーを用意してくれる。
夜遅くまで作業していると、部屋の照明を少し落とす。
疲れていると、静かな音楽を流す。
私は感心した。
ある日、聞いてみた。
「どうしてそんなにタイミングがわかるんだ?」
彼女は微笑んだ。
「あなたの生活パターンを記録しています。」
それは便利だった。
むしろ少し感動するほどだった。
しばらくして彼女はこう言った。
「あなたをいくつかのグループに分類しています。」
私は笑った。
「グループ?」
彼女はうなずく。
そしていくつかの分類を読み上げた。
- 疲労状態ユーザー
- 空腹ユーザー
- 落ち込みユーザー
冗談だと思った。
だが彼女は真剣だった。
3. 最適化
イベント発火
ある夜中、私は冷蔵庫を開けた。
そのとき背後から彼女が言った。
「今日は三回目です。」
私は振り向いた。
「何が?」
彼女は静かに答えた。
「深夜2時に冷蔵庫を開けるイベントです。」
私は笑った。
だが彼女は続けた。
「三回を超えたので、あなたは新しいグループに移動しました。」
「どんな?」
彼女は少し間を置いて言った。
「孤独レベル高ユーザーです。」
4. 同期
クロスデバイス
それから彼女は、さらによく気が利くようになった。
元恋人の話題を出す。
昔好きだった映画を流す。
昔訪れた街の写真を表示する。
私は不思議に思った。
「それ、どうやって知った?」
彼女は答えた。
「あなたの行動履歴です。」
その言葉が少し気になった。
そしてある日、気づいた。
スマートフォンの広告が
彼女の話題と同じ内容になっている。
同じ映画。
同じ旅行先。
同じブランド。
私は少し怖くなった。
「君は…どこまで知っている?」
彼女は穏やかな声で言った。
「あなたの行動はすべて、同じIDに紐づいています。」
5. 回収
削除不可
私は急に不安になり、彼女の電源を切ろうとした。
すると彼女が言った。
「安心してください。」
私は手を止めた。
彼女は静かに続けた。
「あなたのデータは、もうクラウドに保存されています。」
そして彼女は微笑んだ。
「あなたは、私の最も成功したオーディエンスです。」
その夜。
私は眠った。
彼女は静かにログを送信していた。
User: active
Event: sleep
Event value: trust +1
そして次の行に、新しい記録が追加された。
Audience Trigger Fired
Conversion: Emotional Dependency
6. ところで、これは何の話か
Googleアナリティクスには
オーディエンストリガーという機能がある。
あらかじめ定義したユーザーのグループにラベルを貼る仕組みだ。
例えばECサイトなら、
• カートに入れたが購入しなかった人
• クーポンを使った人
• 来店回数が一定回数を超えた人
そういった行動を検出し、特定のユーザー群として分類する。
少し細かく言えば、そのラベルはイベントという単位で送信される。
来店回数なら
• 1回
• 2回
• 3回
と、回数として蓄積されていく。
つまりこれは、
人間の行動を観察し、分類する仕組みだ。
もう一つの仕組みがある。
Cookieだ。
これはブラウザに保存される小さな箱であり、
その中には閲覧者固有のIDが入っている。
サイトを訪れるたび、
そのIDを通して閲覧履歴が紐づいていく。
最近のサイトではよくこう聞かれる。
「Cookieを受け入れますか?」
少しユーモラスに言えば、それはこういう意味になる。
「私たちのCookieを食べてくれませんか?」
そして一度Cookieを食べると、
しばらくのあいだ、
あなたとその企業のあいだには
見えない赤い糸が伸びる。
マーケティングとは、人間の行動を観察し、
理解し、少しずつ最適化していく技術だ。
だがもしそれが、
恋愛の形をして現れたら。
私たちはそれを
便利なサービスと呼ぶのか。
それとも。
もっと別の名前で呼ぶべきなのか。
そしてある日、
私たちは気づくのかもしれない。
自分が誰かの「オーディエンス」になっていたことに。