VTuberはなぜ「会社の資産」になれたのか

―ANYCOLORとUUUM、静かに分かれたビジネスの道

0. なんか最近、差がつきすぎじゃない?

YouTubeから生まれた会社が、二つあります。

一つは、
VTuber事務所として上場し、
営業利益率が40%近くまで伸びている会社。

もう一つは、
YouTuber事務所の代名詞だった会社で、
赤字を経て、上場廃止を選んだ会社。

同じ動画。
同じプラットフォーム。
同じ「クリエイター」ビジネス。

なのに、ここまで差がつく。

これは才能の差でしょうか。
努力の量でしょうか。
運でしょうか。

たぶん、どれも少しずつ違う。

でも一番大きかったのは、
最初に引いた設計図の違いでした。


1. まず結論だけ言うと

―「人を売った会社」と「IPを育てた会社」

かなり乱暴に言います。

  • UUUMは、人が主役の会社でした
  • ANYCOLORは、キャラクター(IP)が主役の会社でした

UUUMでは、
人気のYouTuber本人が価値の中心にありました。

ANYCOLORでは、
VTuberという「キャラクター」が中心に置かれました。

どちらが正しい、ではありません。

でも、
会社として“積み上がる”方向は、
ここではっきり分かれました。


2. ちょっとだけ数字の話

―お金は「今」、価値は「今+未来」

ここで、ほんの少しだけ数字の話をします。
算数が苦手でも大丈夫です。

会社の価値は、
「今いくら稼いでいるか」だけでは決まりません。

市場が見ているのは、
もう一つ先です。

この会社は、
これからも稼ぎ続けられそうか?

その期待を、
かなり乱暴に数字にしたものが PBR です。


PBRって、なに?

PBR(株価純資産倍率)は、
ざっくり言うと、こういう指標です。

「この会社の“今ある資産”に対して、
未来をどれくらい上乗せして見ているか」

  • PBR 1倍
    →「だいたい帳簿どおりかな」
  • PBR 5倍
    →「そこそこ将来も期待してる」
  • PBR 30倍超
    →「未来にかなり賭けてる」

細かい定義はさておき、
感覚としてはこれで十分です。


実は、数年前から差はついていた

ANYCOLORとUUUMは、
数年前からPBRに圧倒的な差がありました。

  • ANYCOLOR:PBR 約30〜35倍
  • UUUM:PBR 約1倍前後

この時点で市場は、
かなり正直な判断をしていました。

  • ANYCOLOR
    →「この仕組み、未来も伸びそう」
  • UUUM
    →「今はいいけど、先は読みにくい」

つまり、
今回の結果は“突然の事故”ではありません。

数字は、
ずっと前から静かに予告していました。


そして「今」の数字が、未来を裏切らなかった

2025年から2026年にかけて、
その予想は現実になります。

  • ANYCOLOR
  • 営業利益率:約38%
  • 業績予想:上方修正
  • UUUM
  • 営業赤字
  • 上場廃止(再生フェーズへ)

未来への期待(PBR)が高かった会社は、
ちゃんと今の利益もついてきた

期待が低かった会社は、
構造の重さが表に出た

ここが、とても重要です。


3. ANYCOLORのビジネスモデルキャンバスを置いてみる

これが、ANYCOLORの設計図です。

一見すると、
ごく普通のエンタメ会社に見えます。

YouTubeがあって、
グッズがあって、
イベントがあって、
ファンクラブがある。

でも、少しだけ視点を変えると、
この設計図はとても冷静です。

特に目を引くのは、次の3点。

  • キャラクター(IP)が会社に帰属している
  • 収益の中心が自社ストア(D2C)にある
  • 利益率の高いデジタル商品を持っている

感情ではなく、
構造で勝ちに行っている

ここが、決定的な違いでした。


4. ANYCOLORがやった一番大きな発明

―「帰属」を決めたこと

少しだけ、ドライな話をします。

VTuberには、
「中の人(魂)」と
「キャラクター(ガワ)」がいます。

ANYCOLORは、
キャラクターの権利を会社に帰属させる
という選択をしました。

つまり、

  • 声をあてるのは人
  • でも、キャラクターは会社のもの

という設計です。

冷たいと思いますか?

たしかに、
人情だけで見れば冷たい。

でも、
会社として見ると、ものすごく合理的です。

なぜなら、
人は辞めても、IPは残るから。


5. 卒業しても、売れ続けるという現実

一般的な芸能事務所では、
タレントが辞めた瞬間、収益は止まります。

でも、ANYCOLORでは違います。

卒業したVTuberの

  • ボイス
  • グッズ
  • アーカイブ

が、
IP資産として残り続ける

時間という制約を超えて、
収益が続く。

これはもう、
ビジネスとしては強すぎる設計です。


6. 錬金術みたいな話

― ボイス販売という最強アイテム

ANYCOLORの収益で、
とくに異質なのが「ボイス販売」です。

考えてみてください。

  • 工場はいらない
  • トラックもいらない
  • 倉庫もいらない

必要なのは、

  • マイク
  • 推しの声
  • ファンの想像力

一度作れば、
1本売れても、1万本売れても、
ほとんど追加コストはかかりません。

しかも、

  • 「使用人ボイス」
  • 「お世話ボイス」
  • 「季節限定ボイス」

と、文脈がつく。

想像力が、そのまま利益になる。

少し不思議で、
でもとても現代的な錬金術です。


7. ファンクラブは「応援」じゃなくて「設計」だった

ANYCOLORのファンクラブは、
応援の場であると同時に、
よくできた装置でもあります。

  • 個別ライバーのファンクラブ
  • にじさんじ全体のファンクラブ

二重構造になっています。

ファンは自由に選んでいるようで、
ちゃんと道が用意されている

YouTubeのメンバーシップは入口。
本丸は、自社ファンクラブ。

手数料は外に出さず、
関係は中に溜める。

この差は、
数年後に大きな差になります。


8. UUUMはなぜ苦しくなったのか

――悪者はいない

ここで、UUUMの話に戻ります。

UUUMは、間違っていたのでしょうか。

たぶん、違います。

UUUMは、

  • 人が主役
  • 才能が中心
  • 事務所は支える側

という、
とても健全な思想で始まりました。

でも、

  • プラットフォーム依存
  • 労働集約
  • 利益率の低さ

という構造が、
だんだん重くなっていった。

人が主役のビジネスは、
成長すると、
どうしても重くなる。

それだけの話です。


9. 結論

― これからのコンテンツビジネスで問われること

ANYCOLORとUUUMの差は、
才能でも、熱量でもありません。

違ったのは、

  • 何を「資産」と定義したか
  • どこに「帰属」させたか
  • どこでお金を回したか

です。

ANYCOLORは、
IPを会社の資産として抽象化し、
自社経済圏で回しました。

UUUMは、
人に依存する構造のまま、
時代の変化を受けました。

正解は一つではありません。

でも、
設計しなかった会社から、順に苦しくなる

これは、
VTuberに限らず、
あらゆるコンテンツビジネスに言えることです。

推しは、尊い。
でも、
会社は、冷静です。

その間にある設計こそが、
これからの仕事を分けていくのだと思います。