—ガチャガチャと並べて、リーンとBMCで読み解いてみる
私は50を迎えたいわゆる団塊ジュニア世代だ。
仕事柄、トレンドや消費行動を見ているつもりでいたが、小5の娘から「ラブブ知ってる?」と聞かれるまで、その存在をまったく知らなかった。
不思議だと思った。
なぜ、これほど広がっているものが、私には見えていなかったのか。
これは流行に鈍感だった、という話ではない。
観測者の位置の問題だ。
知らなかった、という事実
ラブブ(Labubu)は、
子どもやZ世代、アジア圏では“前提知識”に近い存在になっている。
一方で、
団塊ジュニア世代・男性・デジタルマーケ文脈の人間である私には、この市場は構造的に見えなくなっていた。
ここには、明確な断絶がある。
そしてこの断絶そのものが、ビジネスを考えるうえで重要な示唆になる。
ガチャガチャとの既視感
ラブブを調べ始めて、最初に感じたのは強い既視感だった。
—ガチャガチャである。
- 何が出るかわからない
- 欲しいかどうかも、回す前には決まっていない
- それでも、もう一度回したくなる
- 揃えたくなる
- 使わないが、捨てもしない
この「機能価値では説明できない消費」は、
以前整理したガチャガチャのUX(体験設計)と重なる部分が多い。
では、この二つは同じビジネスなのだろうか。
リーンキャンバスで見る:ほぼ同じ顔をしている
まず、両者をリーンキャンバスの評価項目で並べて整理してみる。
以下に挿入する比較表は、本稿で触れている内容を、「課題・価値提案・収益の入り口」という観点で一枚に落としたものだ。

リーンキャンバスで見る限り、
ラブブとガチャガチャは驚くほど似た顔をしている。
- 顧客課題
欲しいものが明確ではない/選ぶのが面倒 - 価値提案
偶然性、驚き、収集の楽しさ - 解決策
「選ばせない」プロダクト設計 - 主要指標
回転数、再購入率
この段階だけを見ると、
ラブブは「少し高級なガチャ」にも見えてしまう。
しかし、この時点ではまだ、決定的な違いは見えてこない。
BMCを入れた瞬間、別物になる
そこで次に、ビジネスモデルキャンバス(BMC)で両者を見てみる。
UXではなく、
誰と組み、どこで価値を回収しているのか
という視点に切り替える。

キーパートナーの違い
ガチャガチャの中核にあるのは、
玩具メーカーと設置場所(商業施設・駅・空港)だ。
一方、ラブブを展開する POP MART は、
IP、アーティスト、ブランド、場合によっては韓国アイドルと連携する。
ここには、
- 設置網依存型
- IP連合型
という、まったく異なる前提がある。
チャネルの違い
ガチャガチャは「通りすがり」だ。
空いたスペースに置かれ、偶然目に入り、つい回す。
ラブブは違う。
直営店やECに会いに行く。
目的来店が前提となる。
同じ偶然性を扱いながら、
接触の主導権が逆転している。
収益構造の違い(決定的)
ガチャガチャは、
300〜500円という低単価を前提に、
台数と回転率で利益を作る。
ラブブは、
1,500〜3,000円という価格帯で、
体験とIP価値に課金できる。
重要なのは、価格帯の差ではない。
どこで利益を回収する設計か
が根本的に違う。
補足:ガチャガチャとインバウンド小銭消費
なお、ガチャガチャの収益構造を考えるうえで、
インバウンド需要は特筆すべき要素だ。
空港や観光地に設置されたガチャマシンは、
訪日外国人が使いきれなかった現地通貨の小銭を消費する 「出口経済(Exit Economy)」として機能している。
これは、
- 高額商品を売るモデルではなく
- 「残余を回収するモデル」
として、きわめて合理的だ。
ガチャガチャが今なお硬貨前提のビジネスモデルを維持できている背景には、
この物理的で現場密着型の需要がある。
なぜ韓国アイドル起用が“成立する”のか
ラブブが、IPや韓国アイドルと組める理由は明確だ。
- BMC上、キーパートナーが価値の源泉
- 価値提案が「世界観への参加」
- 単価が、応援消費・体験消費に耐える
つまり、
誰を起用するかが、そのままビジネスモデルに効く
ガチャガチャでは、
IPは「飾り」にはなっても、
駆動力にはなりにくい。
共通性と、決定的な違い
共通しているもの
- 偶然性
- 収集欲
- 未完成であること
決定的に違うもの
- スケールの方向
- 価格の天井
- 連携相手
- 世界観の拡張余地
UXは似ている。
しかし、BMCが違えば、産業は変わる。
子どもが先に知っている理由
最後に、冒頭の話に戻る。
小5の娘が知っていて、
団塊ジュニア世代の私が知らなかったのは、偶然ではない。
ラブブは、
- 子ども向け商品
ではなく、 - 次の消費構造を先に体現している存在
だからだ。
新しいビジネスは、
既存UXの一段上のレイヤーに現れる。
ガチャガチャの上に、
IPと世界観を載せたもの。
それが、ラブブだった。
—少なくとも、ビジネスとして見たときは。
