割烹に学ぶ営業プロセス

なぜ「再提案」をKPIにすべきなのか

営業の現場では、失注理由としてよく次のような言葉が並ぶ。

  • 担当者は納得していたが、上司でNGになった
  • 他社と比べて、提案スコープが狭かった
  • 価格面で折り合わなかった

しかしこれらは、本当に「提案の出来」が原因なのだろうか。
多くの場合、失注とは提案そのものではなく、そこに至る工程設計の問題である。

この構造を理解するために、ここでは少し視点を変え、
京都の割烹の世界から営業プロセスを眺めてみたい。


京都の割烹は「完成品」を出す場所ではない

京都の割烹に行くと、最初から完成形の料理が出てくることはない。

  • いきなり主菜は出ない
  • 客の様子を見ながら、料理の順番や重さが変わる
  • 板前は、味そのものよりも「間」と「流れ」を見ている

割烹とは、
料理を提供する場であると同時に、判断が自然に進む順番を設計する場だ。

この構造は、営業プロセスと驚くほどよく似ている。


割烹に当てはめる、営業の5ステップ

ここで、営業プロセスを次の5つに分解する。

  1. 初回接触
  2. ヒアリング(前の準備)
  3. 与件深掘り
  4. 提案
  5. 再提案

これを、割烹の流れに重ねてみる。


① 初回接触 = 暖簾をくぐる

割烹では、まず店に入るところから始まる。
料理以前に、「この場に身を置いてもよいか」が問われる。

営業でも同じだ。
この段階でのNGは、能力や提案力の問題ではない。

土俵に上がれなかっただけである。


② ヒアリング(前の準備)= 口取りと一杯目の酒

ここで板前は、客の反応を静かに探る。

  • 味の好み
  • 食べる速度
  • 会話の温度

営業で言えば、BANTCなどの一次確認を含めた「前準備」の段階だ。

重要なのは、
ここで結論を急がないこと

ヒアリングとは、質問攻めにすることではなく、
方向性を探るための“探り”である。


③ 与件深掘り = 向付(刺身)

向付は、素材そのものを味わう料理だ。
余計な手を加えず、客の反応が最もよく見える。

この段階で、次のようなものが滲み出てくる。

  • 本当の制約条件
  • 判断の癖
  • 上司や稟議の影

意思決定構造は、
聞き出すものではなく、並走の中で浮かび上がるものだ。


④ 提案 = 主菜

ここで初めて、店の思想と技がはっきりと出る。

ただし、主菜は「一発勝負の料理」ではない。
それまでの流れを受けて構成された、必然の一皿だ。

ここでNGが出るとすれば、
それは主菜の出来が悪いからではない。

前段の工程で、判断軸が十分に露出していなかっただけである。


⑤ 再提案 = 強肴・留肴

割烹では、客の様子を見て料理を調整するのは当たり前だ。

  • 少し軽くする
  • 逆に締める
  • 食後感を整える

これを営業に置き換えたものが「再提案」だ。

再提案とは、失敗のやり直しではない。
相手をきちんと見ている証拠である。


NGは「3回」しか起きない

この構造で見ると、NGが起きるのは実は3か所しかない。

  • 初回接触(参加権NG)
  • ヒアリング(方向性NG)
  • 提案(判断NG)

再提案はNGではない。
それは、負けを確定させないための調整工程だ。


なぜ「再提案」をKPIにすべきなのか

多くの組織では、営業KPIが「受注率」や「失注率」に偏っている。
しかし、それではプロセスの良し悪しが見えない。

再提案をKPIにすると、次の変化が起きる。

  • 失注理由が結果ではなく工程に帰属する
  • 上司NGや比較負けが異常値として検知できる
  • 若手営業が「一発勝負」から解放される

割烹で言えば、
主菜の出来だけで板前を評価しなくなるということだ。


結びに

京都の割烹では、
料理を変えることは失敗ではない。

客を見て、
間を読み、
最後の一皿を組み替える。

営業における再提案も、同じである。

良い提案とは、
腹を満たすものではない。

判断が自然に進む「順番」を設計することだ。

再提案をKPIにするとは、
この順番設計を、組織として評価するという意思表示なのである。