―― 生成AIとROIを見抜くための「短い検証ループ」
生成AIは、生産性を上げる。
これは、もはや疑いようのない事実になりつつあります。
文章作成は速くなり、資料作成は軽くなり、
調査や思考の初速も、確実に上がっている。
それでも、どこかに残る違和感があります。
それは、ROIにどうつながるのか?
経済全体を押し上げる力になるのか?
効率は上がっていそうだ。
だが、それが「価値」に変換されているかは、まだ見えにくい。
この感覚は、実は機械学習の特徴量設計と、とてもよく似ています。
黄色くて、丸い世界
粗いモザイク越しに見ると、
ぐでたまとパックマンは、どちらも「黄色くて丸い」存在になります。
見た目だけを頼りにすれば、両者はほとんど区別できません。
生成AIも、今はこの段階にあります。
- 便利そう
- 効率は上がっている
- でも、価値の違いはまだ輪郭がぼやけている
この状態で議論を始めると、私たちはすぐに「特徴量の沼」に沈みます。
特徴量の沼とは何か
機械学習では、よくある失敗があります。
強い特徴量――
たとえば「色」や「形」のような分かりやすい情報に引きずられ、
本来見るべき違いに気づけなくなる。
生成AIの文脈では、こう置き換えられます。
- 作業時間が短くなった
- 文章が書けるようになった
- アイデアが出やすくなった
これらは確かに「強い特徴量」です。
しかし、それだけを見続けると、ゴールを見失います。
それは、ぐでたまなのか? それとも、パックマンなのか?
この問いに答えられないまま、
「検証しなければ進めない」という呪縛に陥る。
ぐでたま型AIと、パックマン型AI
ここで、比喩を少しだけ整理します。
ぐでたま型AI
- 単発で使われる
- 受動的
- 明確な目的を持たない
- 効率は上がるが、成果と接続されにくい
パックマン型AI
- 業務プロセスに組み込まれる
- 能動的に使われる
- 明確な目的を持つ
- 意思決定や構造を変える
どちらも「黄色くて丸い」。
しかし、本質はまったく違います。
重要なのは、見た目ではなく「動いているかどうか」です。
「検証しないと進めない」という罠
生成AIを業務に活かそうとすると、必ずこの議論にぶつかります。
- エビデンスを取らずに進めるのは危険
- しかし、すべてを検証しようとすると、何も始まらない
これは矛盾ではありません。
ゴール設定の問題です。
多くの場合、最初から
「最終的なROI」をゴールに置いてしまう。
それは、機械学習で言えば
「すべての特徴量を揃えてから学習を始めよう」とするのと同じです。
中間ゴールYを置くという発想
ここで必要なのは、発想の転換です。
最終ゴール(Z)
- 売上向上
- 利益改善
- 組織生産性の構造変化
これらは重要ですが、遅行指標です。
初期段階では、測れません。
そこで置くのが、中間ゴールYです。
中間ゴールYの例
- 意思決定のスピードが変わったか
- 仮説→アウトプットの往復回数が増えたか
- 手戻りや再作業が減ったか
- 属人性が下がったか
これらはROIそのものではありません。
しかし、ROIにつながる兆し(代理指標)です。
短い検証ループで見抜く
重要なのは、完璧な検証ではありません。
- 小さく試す
- 比較する
- 差分を見る
この短いループを回すことです。
機械学習で言えば、
- ベースラインを置く
- 特徴を一つ変える
- 何が効いたかを見る
生成AIでも同じです。
- 使った案件/使わなかった案件を並べる
- 失敗事例を集める
- 「どこが楽になったか」を言語化する
こうした過程で、偶発的な気づきが生まれます。
偶発性は、運ではない
「体験的に違いに気づいた」
これは、よくある言い回しです。
しかしそれは、運やセンスの話ではありません。
探索の設計があるから、偶発性が拾える。
これは統計的にも、機械学習的にも正しい考え方です。
エラー分析をしなければ、
「なぜ失敗したか」は見えません。
同じように、
生成AIをどう使ったかを振り返らなければ、
「それがぐでたまなのか、パックマンなのか」は分かりません。
ぐでたまか、パックマンかは早く分かる
生成AIが、
- 明確な目的を持ち
- 業務の中で使われ
- 状態を変え続けているなら
それは、もうパックマンです。
一方で、
- 便利だけど
- 単発で
- 成果と接続されていないなら
それは、まだぐでたまのままです。
違いは、意外なほど早く見えてきます。
必要なのは、完璧なROI算定ではありません。
黄色い円のまま終わらせない
重要なのは、
- 正しさを証明することではない
- 全体最適を最初から示すことでもない
短い検証ループで、動いているかを確かめることです。
黄色くて丸いものを、
ただ眺めていても違いは分かりません。
動かしてみる。
目的を与えてみる。
中間ゴールYを置いて、確かめる。
それだけで、
ぐでたまか、パックマンかは、驚くほど早く見えてくる。
